花札の謎シリーズ!7月札『萩に猪』
皆さんこんにちは。
大石天狗堂の広報の藤澤です。
よろしくお願い致します。
さてさて、花札シリーズ第二弾として取り上げるのは、7月の札『萩に猪』です。
花札は月ごとに4枚ずつを花で表し、その月の高得点札には特徴のある絵柄が描かれています。
この高得点札の中の七月の札は(萩に猪)です。
なぜ(ハギとイノシシ)が、セットなのでしょうか?
では、この二つの組み合わせを紐解く前に、それぞれ萩や猪の特徴などを観ていきましょう。
【萩(はぎ)】
萩といえば、『マメ科の植物で秋の七草のひとつ』でも有名です。
また『万葉集で最も良く詠まれたテーマの花』でもあり、後の世に詠まれた和歌や俳句に大きな影響を与えたのではないでしょうか。
さらには『根に根粒菌という菌がいて、痩せた土地でも良く育つ』ようです。
これらの事から、古くから日本人に親しまれてきた植物だったと言えます。
それに、あまり知られていませんが、邪気を払う魔除けの植物とされており、萩の幹(太い部分)で箸を作り、宮中行事の十五の節句等に使われていたそうです。
成長期の萩の枝は、しなやかですが、枯れた状態だと硬くなり、箸として十分な強度があったようです。
【猪】
一方の猪はというと、古くから『摩利支天(武家の崇拝する戦いの神)の使い(神獣)=勝負に勝つ』として、摩利支天同様に大切にされてきたそうです。
摩利支天は、戦国時代 毛利元就や山本勘助も信仰していたのは有名で、大河ドラマ風林火山の作中でも、山本勘助が摩利支天の首飾りを大切にしているシーンが出てきます。
戦に臨んで神のご加護を祈る武将達にとって、戦神である摩利支天は、現代風に言うと(ルーティーン)(ジンクス)といったようなものです。
しかし生死に関わる祈願ですから、その信仰心(威光)は尋常ではなかったと思います。
楠木正成や徳川家康は、摩利支天の像を、自分の兜の中に納め出陣したそうです。
では猪は、なぜ戦いの神の使いと言われるのでしょうか。
その理由は猪の特性にあります。
ひとつの物事に対して夢中で、かつ猛烈な勢いで、突き進むことを『猪突猛進(ちょとつもうしん)』と言います。
戦に限らず、勢いを良しとする武士のような職業や、賭け事などに、この『猛進』という気質や状態が、縁起の良いとされ、その最たる動物として猪が大切にされてきました。
さらには『猪は多産で縁起が良い=子孫繁栄』などの理由もあり、さらに縁起が良い動物とされてきたようです。
余談ですが、京都御所の西側に足腰の健康祈願と、子宝・安産祈願の神として有名な、いのしし神社こと『護王神社(ごおうじんじゃ)』があります。
御所のすぐそばですので、是非お詣りしてみて下さい。
このように(萩と猪)の組み合わせは、どちらも縁起が良いモノ同士の組み合わせですが、他の組み合わせではダメだったのか?
別に違う組み合わせでも、良かったのではないでしょうか?
色々調べるうちに、このような一文を見つけました。
【和歌こそ なほをかしきものなれ。あやしの賤(しづ)・山がつの所作(しわざ)も、いひ出でつれば面白く、恐ろしき猪(い)のししも、「臥猪の床(ふすいのとこ)」といへば、やさしくなりぬ】
これは、吉田兼好の徒然草・第十四段の原文です。
古来、萩=臥猪の床(ふすいのとこ)として知られていました。
臥猪とは、伏せた(臥せた)猪という意味で、言葉の通り横たわり休んでいる猪という意味です。
臥猪の床とは、猪の寝所のことで、凶暴な野生の獣も萩や萱を倒して、寝床にして身を休めるという事です。
さらに広義で天下泰平を表しているとも言われているそうです。
そこから転じて【萩と臥猪】は(優しげで美しい物)と(野生で荒々しい物)の対比を表し、和歌などで調和のとれた情景として使われるようになりました。
これを題材にして、多くの日本画も描かれています。
1834年に京都に生まれた日本画家 望月玉泉の作品に『岩藤熊萩野猪図屏風』もその代表作です。(京都御所の襖絵を描いた玉泉は、京都に画学校を開いたメンバーの一人)
他にも江戸時代、円山派や森派の画題の一つに、臥猪(ふすい)がよく用いられました。
このように萩と猪をセットにする事は、画壇や和歌の世界では、一つのパターンとして扱われるようになったそうです。
花札の絵柄を考案した者が、このような風情のある構図を、取り入れたのではないかと想像できます。
確かに、花札の中の猪は、萩の中にうずくまり、身を休めているように感じますよね。
これは、あくまで筆者の感想ですが、皆さんのお考えはどうですか?
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